分からない

「ねえ、結婚しようよ」

 ジャッシュは思いついて、そうシリルに提案したが、彼はやっと陰茎の全てが彼の内部に収まりきった後につく大きなため息をゆっくり吐いている最中で、こちらの話なんか聞いている様子はなかった。

 衣服を何もまとわない彼の肩は露骨に華奢で、距離が開くと後ろに倒れてしまうんじゃないかと不安になる。だから、ジャッシュは、自分に跨ったまましばらくじっとしている彼を腰ごとグッと引き寄せる。「ん…っ」と、シリルが喉を鳴らせた。

 夜の意匠を纏った必要の部屋から差し込む月光のような光が、白い彼の肌をより一層白くさせている。まるで彼だけ、発光しているようだとジャッシュは思う。そのままそのうっすら輝く彼の肩に口づけた。

「……苦しい?」

 耳元でそう尋ねると、そちら側の耳をくすぐったそうに引きながら、シリルはゆるゆる首を横に振った。そんなわけがない。彼の中は、そんなに大きなものが入るようになっているとはとても思えない。指だって挿れたことがあるし、いつも使っている玩具でだって確かめてあるから、ジャッシュにはそのキャパシティがちゃんと分かっている。なのに、彼が一度、「挿れる」と言い出すと、ありえない許容量の拡張が起こるのか、彼はジャッシュの勃起しきった全ての部分を、宣言通りの場所に飲み込んでいってしまうのだった。どういう理屈なのか、いまだによく分からない。そういうところに、すごく彼らしい実行力を感じてしまう。

 別に挿れなくったって、いつものように彼の中の良い部分をぐりぐりとさすってやって、舌を奥まで絡め合わせながら、お互いを擦り合わせながらイくのだって、ぜんぜん構わないのにな、とジャッシュは思っているが、最近は、彼がこの体勢になることに少し拘っているようで、ジャッシュの説得はことごとく却下されている。シリルは、自分のほうに負担がかかる選択に対しては、多少、強情に進めてしまうきらいがある。

 今ただちに奥を激しく動かしたって、彼が苦しいだけだろうから、ジャッシュは彼のゆるく勃ちあがりかけたそれにそっと手を添えて、親指で根元の裏側をゆっくり刺激してやった。

「ふ…♡ 、ん…」

 ゆるゆる、指を押し回す範囲を増やしていくと、彼の陰茎はまた熱く質量を持ち始める。爪の先端で、同じ場所を甘くカリカリと引っ掻くと、途端にシリルは首に腕を回してしがみ付いてきて、指の動きに合わせて肩を震わせた。

「ぅあ……♡ ぁっ♡ …やァ♡」

 腰を後ろに退こうにも、彼の奥深くにずっぽりと嵌ってしまった結合部があるので、シリルが動ける範囲はかなり狭く、彼は強すぎた快感を逃す術を持たない。自分でそうした癖に、まるでこちらに非があるとでも言いたいのか、彼の目が恨めしそうにジャッシュを見た。そのなんとも言えない表情をした美しい薄青色の瞳を下から見上げていたら、より一層、彼を気持ち良くさせたいという気持ちが抑えきれなくなる。やわく引っ掻いていたその部分を掌でぎゅっと握り込み、反対の手で熱くなった先端を触ると、先から既に漏らしていた彼のカウパーが、ジャッシュの人差し指についた。

「ッ♡」

 敏感な先端をいきなり直接触られた彼は、抱きついた腕に力をこめる。

「もう、いっぱいでてる」

 トントンと、先端を人差し指で何度か叩いて、糸を引く液体の感覚をジャッシュが楽しむと、「ん゛…う~…」と、苦しそうに彼が声を漏らせた。

「かりかり、してほしい?」

「ふぇ♡ あ、あ、あ♡」

 実際に、カウパーを巻き込んで先を爪で甘く引っ掻いてやりながらジャッシュが尋ねると、腰をピクピク震わせながら彼が甘く喉を鳴らせた。

「それとも、根元、しごいて、ほし?」

「…ッ、ぅああ♡ う♡ ゅあ♡」

 先端は人差し指の腹で押さえたまま、反対の手で陰茎を上下に刺激してやると、彼は先ほどより大きな声を上げながら、背中ごとビクビク震えて更にジャッシュの首に抱きついた。このまま刺激を強めていっても、彼の体がかたく強張るばかりなので、ジャッシュは一度手をゆるめて、自分の首元に埋まった彼の顔を覗き込む。

「ねえ、ちゅーしたい」

「……………ん」

 ジャッシュがキスを強請ると、彼は素直に顔を上げた。その緩慢な動き、汗ばんだ前髪、涙ぐんだ目、ゆるんだ口元、全部が少し気が抜けていて、いつもの強情さがない。彼のこの顔が、ジャッシュは好きだ。

 シリルの口元は段々下におりてきて、ジャッシュの唇にぶつかるように接触した。薄紅色の下唇をなんどか食んで、その感触を味わったあと、唇を少しだけ離して、ジャッシュは彼に言う。

「くち、あけて」

 彼はぼんやりしていて平素よりはずっと素直に口を開いてくれるが、その動作はどこか力なく、上下の唇の間にはわずかにしか隙間がうまれない。

「もっと、あーって。舌、だして」

 指示を明確にすると、彼の口はもう少しだけ縦に開き、中から真っ赤な舌先がちろりと覗いた。それに堪らなく欲情し、ジャッシュはそれを捕まえるように、自分の舌を差し入れる。

「……ン♡」

 すぐ奥に退こうとする彼の甘い赤い舌を、逃さない。吸い上げて、絡めとる。ちゅうちゅうと幾度も吸って、舌の裏のつるつるとした柔らかい部分にまで自分の舌を差し入れて、敏感なその場所を何度もねぶり、彼が甘い声を漏らしながら逃げようとするのを許さず、舌を絡め続けた。

「~~~ッ♡ う♡ ンん♡ っ♡」

 隙間から、ぴちゃぴちゃ絡み合う音が漏れて、それにもどんどん興奮が加速する。舌に舌が絡まるその直接的な肉感が、ジャッシュをどうしても惹き付けてやまない。今、この瞬間は、シリルに直接触れている感じがする。彼の舌裏を舐めあげている時は、彼が普段自分に張っている薄い膜のようなバリアがはがれて、直接、なまの彼に、触れられている気がする。そのことに、自分はどうしようもなく欲情してしまう。

 舌を絡めれば絡めるほど、繋がった彼の奥がひくひくと震え、まるで甘えてくるようにジャッシュの性器をきゅうきゅうと刺激する。堪らない。このキスが好きだ。彼の舌を吸うのが好きだ。もっと口付けたい。もっと彼の自由を奪ったまま、彼の奥の、更に奥深くを舐めあげたい。

「ン……♡ ん……♡ ん、…ん……♡ ~~っン……ッッ♡」

 やがて、力なくシリルが肩を押し、ようやく自分が彼に息をする間も与えていなかった事実に気づいて、ジャッシュは唇を放した。

「~~っぷは、………はぁ、はぁ……」

 肩で息をしながら、シリルがジャッシュの肩に腕を置いて、少し休むようにそこに体重を預けた。

「……いま、……かるく、なかイキ、した…」

 どことなくいつもの雰囲気が戻ってきた声色で、それだけに彼の発言には真実味があった。

「え、うそ。でも、出てないよ」

 ジャッシュは握り込んだ彼の熱を確かめたが、射精の痕はない。

「ッ、だから。なかイキって、そういうんでしょ」

 彼はずっと震えていたから、どこで絶頂に達したのか、ジャッシュには分からなかった。それが少し口惜しいことのように思えて、ジャッシュは上唇をとがらせる。

「なら、さきに言ってよ」

「言えなくしてたのは、どっち」

 さっきまでの甘えた声と打って変わって、ツンとした平素の彼の調子で、シリルはそう言った。

「ええ? 僕のせい?」

「少なくとも、僕だけのせいではないんじゃない」

 息の調子が整ってきたようで、シリルは肩から腕を放し、ジャッシュの太腿に手を付いた。

「ほら、次はどうする? 君の番?」

 わざとらしく煽情的な仕草をする彼に、ジャッシュは一瞬だけそのまま突き上げたい衝動にかられはしたけれど、そのまま抽挿したところで彼の体には負荷ばかりかかることは明白で、苦しそうな彼を想像すると、少し萎えてしまう。

「いいよ、このままゆっくりしたい」

「っていうか、君、さっき、何か言ったよね」

「へ?」

 ジャッシュがシリルの片腕を引くと、彼はまた抱き寄せられる位置に戻ってきて、こちらを見下ろしながら言った。

「挿れおわったとき、何か言ってた」

「言ったっけ」

「うん」

 白く光る彼の肩を、また味わうためにジャッシュは彼の肌に唇をつける。舌で舐めて、軽く吸い上げ、少し離すと、吸った部分だけ薄赤くなった肌が見える。この色が好きで、何か所か、同じようにキスをしてしまう。

「なんだかまた可笑しなことをって思っ……、わ、バカ! 痕つけないでって、言ってるだろ」

「え? ここも?」

「だいぶ残るんだ、君と違って!」

「そんなに残してない」

「“そんなに”かどうかは、僕が決める」

 シリルは掌でジャッシュの口元を隠して押し返す。

「じゃあ、どこならいいの?」

 下からシリルを見上げれば、彼は少し眉を寄せて、視線をそらした。

「本当に、君は、……甘えるのだけは上手い」

 そうだろうか、とジャッシュは思ったが、下手な反論はせずに黙って彼の判断を待った。しばらくすると、彼が手をのけて、上から口づけを落としてくれる。

「いつものキスで、我慢しろ」

 むしろご褒美だ。ジャッシュはすぐに彼の甘い赤を追って舌を差し入れる。退こうとする彼の背中を両腕で抱き留め、彼の甘さを追って舌を舐りあげているうちに、いつのまにかソファの反対側に彼を押し倒してしまっていた。彼はまた、柔らかい声を上げながらも、早急すぎるそれに少し抵抗しているようだった。

「…ふ……ッ、…ぅん♡ …っふ♡ ふぁ♡ ん♡」

 それでもジャッシュはしばらくは気づかないふりをして、彼の舌の根を吸い上げて、口内を好きなだけ吸っては舐め、舐めては吸って、彼の息も唾液も甘い声を、全て奪い尽くしたあと、ようやくその口を解放した。

「……っふ、…はあ、……はあ、………やりすぎ」

 そんなことはない、全然足りない、とジャッシュは思う。

 さっきから、まるで繋がっていることが当然みたいになった、その結合部に、ぐっと力を入れると途端に彼が「っふ、ぅん♡」と甘い声を上げた。中でぐちゃり、と、繋がりなおす感覚がある。自分のカウパーが、もうずいぶんと彼の中で溢れてしまっているらしい。ゆるくほぐれた彼の内部は、痺れるようにひくひくと小刻みに痙攣して、ずっと自分を誘惑し続けてきている。

「……っ、きもち、いい」

「~~~ッ♡ ゃあ…ッ♡ ま…だ、うご……か、な…ッ♡」

 ずっと甘えてきている癖に、口では動くなという彼の要望を、ジャッシュはなんとか聞き入れて、彼の両ひざを開かせ、抽挿の姿勢にいざなった。ひざを緩く曲げたまま、大きく足を開いた彼の体は、全身白くて、ところどころ熱く赤い。身体が固定されていないのなら、白く陶器のようにすべらかな彼の隆起のひとつひとつを、すべて丁寧に舐めまわしてしまいたいところだ。

 押し倒され、体を開かれ、後はもう全部を食べられるしかない体勢になってなお、シリルは涙に緩んだ目でこちらを力なく睨みつけ、「……っだ…め」と、お預けを主張する。一体、今の彼のこの発言にどれほどの効力があると、彼自身思っているのだろうか。自分が少し腰を揺らせば、すぐに甘い声で鳴くだろうに。ジャッシュの中で、裏返った嗜虐心のようなものが芽吹いてくる。彼が強情なせいだ。本当は彼をさんざん甘やかして、とろとろに溶かして、吸い上げて食べてしまいたいだけなのに。

 シリルの両手を上から握り込み、ジャッシュは自分たちの接合部を見下ろした。

「でもさ、……君も、限界みたいだよ……?」

 シリルの勃ちあがった熱を、腹で少し擦りあげると、「っ~~あ♡」と彼が喉を鳴らせた。

「ほんとは、動いてほしいでしょ?」

 接合部の入口の筋肉に、ほんのわずかにだけ力をこめる。

「ん~~っ……♡」

「好きでしょ? 中でイくの」

「……っ♡ ふ♡ …ぅ…♡」

「さっきより、深い、中イキ、…しよ?」

「……ぅ~…っ♡ んんっ♡」

「……ね? しよ?」

「~~~~ッ♡」

「……いっぱい、奥、とんとん、しよ?」

 ぎゅうっとシリルの両手に力が入った。ジャッシュの指をすべて絡めて手を繋いだ彼が、どろどろに溶けた声で、ジャッシュに強請った。

「……するぅ……♡ ちゅ、……ちゅうも、してぇ……♡」

 彼の口の中の真っ赤な舌が見えて、それでもうジャッシュも何もかも駄目になってしまった。留めていたはずの力が勝手にあふれ出し、腰が自動的に彼を穿ち始めてしまう。もっと浅い抽挿からほぐすはずだった彼の一番敏感な奥を、欲しいままに突き上げて、彼の開いた口から舌のすべてを吸い上げて舐め尽くしたい衝動に支配された。

「…ぅ゛わ♡ あっ♡ あッ♡ ひゃ♡ ら、♡ ふか…ッ♡ いッ♡ むぃ♡ むりぃ♡♡」

「僕も…ッ、むり♡ こんな奥、甘えて♡」

 突き上げるたびに、彼の内部がきゅうきゅうとジャッシュに抱きついて離さない。

「…あっ… ぃああぁっ… ん…っ! あぅ…ッ♡」

「ほら♡ もっと、足ひろげて? いたくしないよ、気持ちいいよ」

「むり、らからあ゛…ッ♡♡ も、おく、きもち、い゛っ…からぁ♡♡」

「うん、きもちいいね…っ、きもちくなってるシリル、僕にもっとみせて…っ」

 理性を手放してしまったように甘えた声で鳴くシリルを抱き留めて、ジャッシュは隙あらば閉じようとする彼の足を開かせる。そのたび、みっともないほど、あらわになる彼の秘部を、全て目で味わい尽くす。揺さぶられ、快感の中ただ縦に揺れるしかない陰茎を、その先端から溢れるカウパーを、全部、視界に収めて、その何もかもに興奮する。

「やぁッ ひ…っ やら、あぁッ おくッや゛めてぇ あ゛っ♡♡ お゛っ、ん゛♡ ひっ♡♡♡ も、らめ…ぇッ♡♡ す、き゛ッ…♡♡♡ しゅき、すきぃッ♡♡

「うん、おく、すきだねっ…、かわい、…最後は…ッ、ちゅーで、イける…?」

「やぁ、らめぇ…♡ っん…っ! いき、……ッできな……っ♡」

「だーめ♡ さいごだけ、息、とめよ? ほら、ちゅー、」

「あぅ…ッな、なん゛でぇっ な゛んれッ じら、すのぉ…っ

「舌だしたら、好きな奥、おもいっきりついたげるよ」

「……すぅ♡ するからっ♡ ちゅー♡ ちゅするがらァっ♡♡ おくぅ♡♡」

「じゃあ、はい、あーん」

 ジャッシュの首に抱きついたままのシリルは、言われるがままに口を開け、舌を出して見せた。その降伏に、ジャッシュはとんでもない興奮を覚え、すぐに彼の舌を吸い取った。ぢゅうぢゅう、彼の舌を吸い上げて、両手で彼の頬を押さえて、口の奥まで舌先で犯しつくした。

「ふ、ン~~~ッッッッ♡♡♡ ん、んん~~~~~ッッッ♡♡♡♡」

 シリルの両足が、自分の足にしがみつく感触があった。ぎゅうぎゅうと身体が痙攣して、中が締まる。彼が絶頂に達していることが、ジャッシュの興奮をさらに掻き立てる。舌を何度も絡めながら、シリルはキスの合間にする息すら惜しんでジャッシュに強請る。

「らしてぇ♡♡ あ゛あ♡ らひてぇッ♡♡ も、らめ…ッ♡♡ す、き゛ッ…♡♡♡ すき、すきぃッ♡♡ あッ…イ…ってゆ♡♡♡ なかっ♡♡♡ とまんなぁ……~~っ♡♡ イってる、とこッ♡ びゅうっびゅうって、してぇ♡♡♡♡♡」

 あまりに可愛すぎるお願いに、頭がチカチカしながら、ジャッシュは突き上げる欲望を乱暴にそのまま彼に穿ち続け、彼の望み通り、中にすべてを吐精した。

「……ッかわい、かわ……ッい、ぜんぶ、…ぼくの……っ♡」

「あっ、あんっ♡♡ イ、くッ♡♡♡ ふか、いッの、くる……ッ♡♡ イッちゃ、あ゛あッ♡♡ や゛ッイッッッ~~~~~♡♡♡♡

 シリルはジャッシュの肩に爪を立てて、必死に抱きつきながら、びくびくと強く痙攣した。

 そして数十秒はかたまったあと、ぜえぜえ肩で息をしながら、ソファにだらんと腕を投げ捨てた。

「………ッ、……っ、……はあ、……っ、はあ………っ、……」

 ジャッシュも、上がった息を整えながら、繋がった部分をそっと引き抜く。

 さっきまで密着して離れなかったのが嘘のようにするりとその部分は抜け、何の摩擦もなく二人の体はもとの二つになった。

 飲み物が必要だ。

 ジャッシュが感覚がワクワクしたままの足をなんとか床につけて立ち上がると、息も絶え絶えの枯れた声で、恨めしそうに、シリルが言った。

「誰が、……全部、君のだって……?」

 ここまでやっておいて、一体、どの部分を気にしているんだろう、彼は、とジャッシュは思う。

 水差しに二人分の水をくみながら、ジャッシュは彼に答えた。

「イってるときの言葉ぐらい、許してよ」

「いや、そういう時こそ、歪んだ本音が出てる」

 シリルは不服を言いながらも、ジャッシュが差し出した水には「ありがとう」と言って受け取って飲んだ。そしてコップの中を一気に飲み干してから、空の容器を差し出して、「おかわり」と言った。ジャッシュは水差しごと持ってきて、彼に新しい水を注いでやる。

「本音っていうか、願望だよ」

 ジャッシュはソファに腰を下ろして水を飲む。確かに、カラカラになった今の喉には、このコップ一杯じゃ足らなさそうだ。今度はもっと、背の高いグラスを探そう、と思う。

「やっぱり。君、さっき変な事言ってたの、あれもだね?」

「へ?」

「僕が頑張ってたとき、君、言ってただろ、結婚しようって」

「ああ」

 聞こえていたのか、とジャッシュは思った。

 シリルは相変わらず、小さい子でも叱りつけるような調子で言う。

「君は、本当に、ずっと変なことを言ってる」

「どうして。別に、変じゃないだろ?」

「変だよ。じゃあ、当ててあげよう。君がどうして結婚しようって言ったのか」

 シリルはテーブルにあった杖に手を伸ばし、離れたところにあるバスタブに向けてひょいとそれを振った。途端に蛇口から湯気の立つ湯が注がれ始め、ふかふかの白いバスローブが彼の元に飛んでくる。

「僕が、他の人と結婚するのが嫌だと思ったから、だ。そうだろ?」

 バスローブに彼が袖を通す。うっすら光った白い肌は隠れ、ただの白いもこもこになっていく。

「まあ、……そうだけど」

 ジャッシュが肯定すると、シリルはトロールの首でも取ったかのように「ほら」と言ってみせ、

「そんな理由で僕が結婚するわけないだろ」

と、冷ややかな視線を投げてよこした。

 

 ジャッシュは内心、いろんな言葉を飲み込んだ。

 だったら、どんな理由で彼は結婚するっていうんだ。というか、どんなまっとうな理由があって、彼は僕とセックスしてるっていうんだ? そもそも、どうして僕は彼に責められている? 浅慮さを? なぜ? 彼はちっとも浅はかじゃない?

 分からない。

 けれど、今は全ての思考がどうでもいいことのように思えて、考えの全部を放棄した。

 とりあえず、彼と付き合っていくにはこの切り替えが大切だ。

 今は、彼と、湯船で身体を洗いたい。

 分からないが、それでいい。

 当分のあいだは、彼の事はちっとも分からないままだろう。

 

2026.05.17

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、結婚しようよ」

 ジャッシュは思いついて、そうシリルに提案したが、彼はやっと陰茎の全てが彼の内部に収まりきった後につく大きなため息をゆっくり吐いている最中で、こちらの話なんか聞いている様子はなかった。

 衣服を何もまとわない彼の肩は露骨に華奢で、距離が開くと後ろに倒れてしまうんじゃないかと不安になる。だから、ジャッシュは、自分に跨ったまましばらくじっとしている彼を腰ごとグッと引き寄せる。「ん…っ」と、シリルが喉を鳴らせた。

 夜の意匠を纏った必要の部屋から差し込む月光のような光が、白い彼の肌をより一層白くさせている。まるで彼だけ、発光しているようだとジャッシュは思う。そのままそのうっすら輝く彼の肩に口づけた。

「……苦しい?」

 耳元でそう尋ねると、そちら側の耳をくすぐったそうに引きながら、シリルはゆるゆる首を横に振った。そんなわけがない。彼の中は、そんなに大きなものが入るようになっているとはとても思えない。指だって挿れたことがあるし、いつも使っている玩具でだって確かめてあるから、ジャッシュにはそのキャパシティがちゃんと分かっている。なのに、彼が一度、「挿れる」と言い出すと、ありえない許容量の拡張が起こるのか、彼はジャッシュの勃起しきった全ての部分を、宣言通りの場所に飲み込んでいってしまうのだった。どういう理屈なのか、いまだによく分からない。そういうところに、すごく彼らしい実行力を感じてしまう。

 別に挿れなくったって、いつものように彼の中の良い部分をぐりぐりとさすってやって、舌を奥まで絡め合わせながら、お互いを擦り合わせながらイくのだって、ぜんぜん構わないのにな、とジャッシュは思っているが、最近は、彼がこの体勢になることに少し拘っているようで、ジャッシュの説得はことごとく却下されている。シリルは、自分のほうに負担がかかる選択に対しては、多少、強情に進めてしまうきらいがある。

 今ただちに奥を激しく動かしたって、彼が苦しいだけだろうから、ジャッシュは彼のゆるく勃ちあがりかけたそれにそっと手を添えて、親指で根元の裏側をゆっくり刺激してやった。

「ふ…♡ 、ん…」

 ゆるゆる、指を押し回す範囲を増やしていくと、彼の陰茎はまた熱く質量を持ち始める。爪の先端で、同じ場所を甘くカリカリと引っ掻くと、途端にシリルは首に腕を回してしがみ付いてきて、指の動きに合わせて肩を震わせた。

「ぅあ……♡ ぁっ♡ …やァ♡」

 腰を後ろに退こうにも、彼の奥深くにずっぽりと嵌ってしまった結合部があるので、シリルが動ける範囲はかなり狭く、彼は強すぎた快感を逃す術を持たない。自分でそうした癖に、まるでこちらに非があるとでも言いたいのか、彼の目が恨めしそうにジャッシュを見た。そのなんとも言えない表情をした美しい薄青色の瞳を下から見上げていたら、より一層、彼を気持ち良くさせたいという気持ちが抑えきれなくなる。やわく引っ掻いていたその部分を掌でぎゅっと握り込み、反対の手で熱くなった先端を触ると、先から既に漏らしていた彼のカウパーが、ジャッシュの人差し指についた。

「ッ♡」

 敏感な先端をいきなり直接触られた彼は、抱きついた腕に力をこめる。

「もう、いっぱいでてる」

 トントンと、先端を人差し指で何度か叩いて、糸を引く液体の感覚をジャッシュが楽しむと、「ん゛…う~…」と、苦しそうに彼が声を漏らせた。

「かりかり、してほしい?」

「ふぇ♡ あ、あ、あ♡」

 実際に、カウパーを巻き込んで先を爪で甘く引っ掻いてやりながらジャッシュが尋ねると、腰をピクピク震わせながら彼が甘く喉を鳴らせた。

「それとも、根元、しごいて、ほし?」

「…ッ、ぅああ♡ う♡ ゅあ♡」

 先端は人差し指の腹で押さえたまま、反対の手で陰茎を上下に刺激してやると、彼は先ほどより大きな声を上げながら、背中ごとビクビク震えて更にジャッシュの首に抱きついた。このまま刺激を強めていっても、彼の体がかたく強張るばかりなので、ジャッシュは一度手をゆるめて、自分の首元に埋まった彼の顔を覗き込む。

「ねえ、ちゅーしたい」

「……………ん」

 ジャッシュがキスを強請ると、彼は素直に顔を上げた。その緩慢な動き、汗ばんだ前髪、涙ぐんだ目、ゆるんだ口元、全部が少し気が抜けていて、いつもの強情さがない。彼のこの顔が、ジャッシュは好きだ。

 シリルの口元は段々下におりてきて、ジャッシュの唇にぶつかるように接触した。薄紅色の下唇をなんどか食んで、その感触を味わったあと、唇を少しだけ離して、ジャッシュは彼に言う。

「くち、あけて」

 彼はぼんやりしていて平素よりはずっと素直に口を開いてくれるが、その動作はどこか力なく、上下の唇の間にはわずかにしか隙間がうまれない。

「もっと、あーって。舌、だして」

 指示を明確にすると、彼の口はもう少しだけ縦に開き、中から真っ赤な舌先がちろりと覗いた。それに堪らなく欲情し、ジャッシュはそれを捕まえるように、自分の舌を差し入れる。

「……ン♡」

 すぐ奥に退こうとする彼の甘い赤い舌を、逃さない。吸い上げて、絡めとる。ちゅうちゅうと幾度も吸って、舌の裏のつるつるとした柔らかい部分にまで自分の舌を差し入れて、敏感なその場所を何度もねぶり、彼が甘い声を漏らしながら逃げようとするのを許さず、舌を絡め続けた。

「~~~ッ♡ う♡ ンん♡ っ♡」

 隙間から、ぴちゃぴちゃ絡み合う音が漏れて、それにもどんどん興奮が加速する。舌に舌が絡まるその直接的な肉感が、ジャッシュをどうしても惹き付けてやまない。今、この瞬間は、シリルに直接触れている感じがする。彼の舌裏を舐めあげている時は、彼が普段自分に張っている薄い膜のようなバリアがはがれて、直接、なまの彼に、触れられている気がする。そのことに、自分はどうしようもなく欲情してしまう。

 舌を絡めれば絡めるほど、繋がった彼の奥がひくひくと震え、まるで甘えてくるようにジャッシュの性器をきゅうきゅうと刺激する。堪らない。このキスが好きだ。彼の舌を吸うのが好きだ。もっと口付けたい。もっと彼の自由を奪ったまま、彼の奥の、更に奥深くを舐めあげたい。

「ン……♡ ん……♡ ん、…ん……♡ ~~っン……ッッ♡」

 やがて、力なくシリルが肩を押し、ようやく自分が彼に息をする間も与えていなかった事実に気づいて、ジャッシュは唇を放した。

「~~っぷは、………はぁ、はぁ……」

 肩で息をしながら、シリルがジャッシュの肩に腕を置いて、少し休むようにそこに体重を預けた。

「……いま、……かるく、なかイキ、した…」

 どことなくいつもの雰囲気が戻ってきた声色で、それだけに彼の発言には真実味があった。

「え、うそ。でも、出てないよ」

 ジャッシュは握り込んだ彼の熱を確かめたが、射精の痕はない。

「ッ、だから。なかイキって、そういうんでしょ」

 彼はずっと震えていたから、どこで絶頂に達したのか、ジャッシュには分からなかった。それが少し口惜しいことのように思えて、ジャッシュは上唇をとがらせる。

「なら、さきに言ってよ」

「言えなくしてたのは、どっち」

 さっきまでの甘えた声と打って変わって、ツンとした平素の彼の調子で、シリルはそう言った。

「ええ? 僕のせい?」

「少なくとも、僕だけのせいではないんじゃない」

 息の調子が整ってきたようで、シリルは肩から腕を放し、ジャッシュの太腿に手を付いた。

「ほら、次はどうする? 君の番?」

 わざとらしく煽情的な仕草をする彼に、ジャッシュは一瞬だけそのまま突き上げたい衝動にかられはしたけれど、そのまま抽挿したところで彼の体には負荷ばかりかかることは明白で、苦しそうな彼を想像すると、少し萎えてしまう。

「いいよ、このままゆっくりしたい」

「っていうか、君、さっき、何か言ったよね」

「へ?」

 ジャッシュがシリルの片腕を引くと、彼はまた抱き寄せられる位置に戻ってきて、こちらを見下ろしながら言った。

「挿れおわったとき、何か言ってた」

「言ったっけ」

「うん」

 白く光る彼の肩を、また味わうためにジャッシュは彼の肌に唇をつける。舌で舐めて、軽く吸い上げ、少し離すと、吸った部分だけ薄赤くなった肌が見える。この色が好きで、何か所か、同じようにキスをしてしまう。

「なんだかまた可笑しなことをって思っ……、わ、バカ! 痕つけないでって、言ってるだろ」

「え? ここも?」

「だいぶ残るんだ、君と違って!」

「そんなに残してない」

「“そんなに”かどうかは、僕が決める」

 シリルは掌でジャッシュの口元を隠して押し返す。

「じゃあ、どこならいいの?」

 下からシリルを見上げれば、彼は少し眉を寄せて、視線をそらした。

「本当に、君は、……甘えるのだけは上手い」

 そうだろうか、とジャッシュは思ったが、下手な反論はせずに黙って彼の判断を待った。しばらくすると、彼が手をのけて、上から口づけを落としてくれる。

「いつものキスで、我慢しろ」

 むしろご褒美だ。ジャッシュはすぐに彼の甘い赤を追って舌を差し入れる。退こうとする彼の背中を両腕で抱き留め、彼の甘さを追って舌を舐りあげているうちに、いつのまにかソファの反対側に彼を押し倒してしまっていた。彼はまた、柔らかい声を上げながらも、早急すぎるそれに少し抵抗しているようだった。

「…ふ……ッ、…ぅん♡ …っふ♡ ふぁ♡ ん♡」

 それでもジャッシュはしばらくは気づかないふりをして、彼の舌の根を吸い上げて、口内を好きなだけ吸っては舐め、舐めては吸って、彼の息も唾液も甘い声を、全て奪い尽くしたあと、ようやくその口を解放した。

「……っふ、…はあ、……はあ、………やりすぎ」

 そんなことはない、全然足りない、とジャッシュは思う。

 さっきから、まるで繋がっていることが当然みたいになった、その結合部に、ぐっと力を入れると途端に彼が「っふ、ぅん♡」と甘い声を上げた。中でぐちゃり、と、繋がりなおす感覚がある。自分のカウパーが、もうずいぶんと彼の中で溢れてしまっているらしい。ゆるくほぐれた彼の内部は、痺れるようにひくひくと小刻みに痙攣して、ずっと自分を誘惑し続けてきている。

「……っ、きもち、いい」

「~~~ッ♡ ゃあ…ッ♡ ま…だ、うご……か、な…ッ♡」

 ずっと甘えてきている癖に、口では動くなという彼の要望を、ジャッシュはなんとか聞き入れて、彼の両ひざを開かせ、抽挿の姿勢にいざなった。ひざを緩く曲げたまま、大きく足を開いた彼の体は、全身白くて、ところどころ熱く赤い。身体が固定されていないのなら、白く陶器のようにすべらかな彼の隆起のひとつひとつを、すべて丁寧に舐めまわしてしまいたいところだ。

 押し倒され、体を開かれ、後はもう全部を食べられるしかない体勢になってなお、シリルは涙に緩んだ目でこちらを力なく睨みつけ、「……っだ…め」と、お預けを主張する。一体、今の彼のこの発言にどれほどの効力があると、彼自身思っているのだろうか。自分が少し腰を揺らせば、すぐに甘い声で鳴くだろうに。ジャッシュの中で、裏返った嗜虐心のようなものが芽吹いてくる。彼が強情なせいだ。本当は彼をさんざん甘やかして、とろとろに溶かして、吸い上げて食べてしまいたいだけなのに。

 シリルの両手を上から握り込み、ジャッシュは自分たちの接合部を見下ろした。

「でもさ、……君も、限界みたいだよ……?」

 シリルの勃ちあがった熱を、腹で少し擦りあげると、「っ~~あ♡」と彼が喉を鳴らせた。

「ほんとは、動いてほしいでしょ?」

 接合部の入口の筋肉に、ほんのわずかにだけ力をこめる。

「ん~~っ……♡」

「好きでしょ? 中でイくの」

「……っ♡ ふ♡ …ぅ…♡」

「さっきより、深い、中イキ、…しよ?」

「……ぅ~…っ♡ んんっ♡」

「……ね? しよ?」

「~~~~ッ♡」

「……いっぱい、奥、とんとん、しよ?」

 ぎゅうっとシリルの両手に力が入った。ジャッシュの指をすべて絡めて手を繋いだ彼が、どろどろに溶けた声で、ジャッシュに強請った。

「……するぅ……♡ ちゅ、……ちゅうも、してぇ……♡」

 彼の口の中の真っ赤な舌が見えて、それでもうジャッシュも何もかも駄目になってしまった。留めていたはずの力が勝手にあふれ出し、腰が自動的に彼を穿ち始めてしまう。もっと浅い抽挿からほぐすはずだった彼の一番敏感な奥を、欲しいままに突き上げて、彼の開いた口から舌のすべてを吸い上げて舐め尽くしたい衝動に支配された。

「…ぅ゛わ♡ あっ♡ あッ♡ ひゃ♡ ら、♡ ふか…ッ♡ いッ♡ むぃ♡ むりぃ♡♡」

「僕も…ッ、むり♡ こんな奥、甘えて♡」

 突き上げるたびに、彼の内部がきゅうきゅうとジャッシュに抱きついて離さない。

「…あっ… ぃああぁっ… ん…っ! あぅ…ッ♡」

「ほら♡ もっと、足ひろげて? いたくしないよ、気持ちいいよ」

「むり、らからあ゛…ッ♡♡ も、おく、きもち、い゛っ…からぁ♡♡」

「うん、きもちいいね…っ、きもちくなってるシリル、僕にもっとみせて…っ」

 理性を手放してしまったように甘えた声で鳴くシリルを抱き留めて、ジャッシュは隙あらば閉じようとする彼の足を開かせる。そのたび、みっともないほど、あらわになる彼の秘部を、全て目で味わい尽くす。揺さぶられ、快感の中ただ縦に揺れるしかない陰茎を、その先端から溢れるカウパーを、全部、視界に収めて、その何もかもに興奮する。

「やぁッ ひ…っ やら、あぁッ おくッや゛めてぇ あ゛っ♡♡ お゛っ、ん゛♡ ひっ♡♡♡ も、らめ…ぇッ♡♡ す、き゛ッ…♡♡♡ しゅき、すきぃッ♡♡

「うん、おく、すきだねっ…、かわい、…最後は…ッ、ちゅーで、イける…?」

「やぁ、らめぇ…♡ っん…っ! いき、……ッできな……っ♡」

「だーめ♡ さいごだけ、息、とめよ? ほら、ちゅー、」

「あぅ…ッな、なん゛でぇっ な゛んれッ じら、すのぉ…っ

「舌だしたら、好きな奥、おもいっきりついたげるよ」

「……すぅ♡ するからっ♡ ちゅー♡ ちゅするがらァっ♡♡ おくぅ♡♡」

「じゃあ、はい、あーん」

 ジャッシュの首に抱きついたままのシリルは、言われるがままに口を開け、舌を出して見せた。その降伏に、ジャッシュはとんでもない興奮を覚え、すぐに彼の舌を吸い取った。ぢゅうぢゅう、彼の舌を吸い上げて、両手で彼の頬を押さえて、口の奥まで舌先で犯しつくした。

「ふ、ン~~~ッッッッ♡♡♡ ん、んん~~~~~ッッッ♡♡♡♡」

 シリルの両足が、自分の足にしがみつく感触があった。ぎゅうぎゅうと身体が痙攣して、中が締まる。彼が絶頂に達していることが、ジャッシュの興奮をさらに掻き立てる。舌を何度も絡めながら、シリルはキスの合間にする息すら惜しんでジャッシュに強請る。

「らしてぇ♡♡ あ゛あ♡ らひてぇッ♡♡ も、らめ…ッ♡♡ す、き゛ッ…♡♡♡ すき、すきぃッ♡♡ あッ…イ…ってゆ♡♡♡ なかっ♡♡♡ とまんなぁ……~~っ♡♡ イってる、とこッ♡ びゅうっびゅうって、してぇ♡♡♡♡♡」

 あまりに可愛すぎるお願いに、頭がチカチカしながら、ジャッシュは突き上げる欲望を乱暴にそのまま彼に穿ち続け、彼の望み通り、中にすべてを吐精した。

「……ッかわい、かわ……ッい、ぜんぶ、…ぼくの……っ♡」

「あっ、あんっ♡♡ イ、くッ♡♡♡ ふか、いッの、くる……ッ♡♡ イッちゃ、あ゛あッ♡♡ や゛ッイッッッ~~~~~♡♡♡♡

 シリルはジャッシュの肩に爪を立てて、必死に抱きつきながら、びくびくと強く痙攣した。

 そして数十秒はかたまったあと、ぜえぜえ肩で息をしながら、ソファにだらんと腕を投げ捨てた。

「………ッ、……っ、……はあ、……っ、はあ………っ、……」

 ジャッシュも、上がった息を整えながら、繋がった部分をそっと引き抜く。

 さっきまで密着して離れなかったのが嘘のようにするりとその部分は抜け、何の摩擦もなく二人の体はもとの二つになった。

 飲み物が必要だ。

 ジャッシュが感覚がワクワクしたままの足をなんとか床につけて立ち上がると、息も絶え絶えの枯れた声で、恨めしそうに、シリルが言った。

「誰が、……全部、君のだって……?」

 ここまでやっておいて、一体、どの部分を気にしているんだろう、彼は、とジャッシュは思う。

 水差しに二人分の水をくみながら、ジャッシュは彼に答えた。

「イってるときの言葉ぐらい、許してよ」

「いや、そういう時こそ、歪んだ本音が出てる」

 シリルは不服を言いながらも、ジャッシュが差し出した水には「ありがとう」と言って受け取って飲んだ。そしてコップの中を一気に飲み干してから、空の容器を差し出して、「おかわり」と言った。ジャッシュは水差しごと持ってきて、彼に新しい水を注いでやる。

「本音っていうか、願望だよ」

 ジャッシュはソファに腰を下ろして水を飲む。確かに、カラカラになった今の喉には、このコップ一杯じゃ足らなさそうだ。今度はもっと、背の高いグラスを探そう、と思う。

「やっぱり。君、さっき変な事言ってたの、あれもだね?」

「へ?」

「僕が頑張ってたとき、君、言ってただろ、結婚しようって」

「ああ」

 聞こえていたのか、とジャッシュは思った。

 シリルは相変わらず、小さい子でも叱りつけるような調子で言う。

「君は、本当に、ずっと変なことを言ってる」

「どうして。別に、変じゃないだろ?」

「変だよ。じゃあ、当ててあげよう。君がどうして結婚しようって言ったのか」

 シリルはテーブルにあった杖に手を伸ばし、離れたところにあるバスタブに向けてひょいとそれを振った。途端に蛇口から湯気の立つ湯が注がれ始め、ふかふかの白いバスローブが彼の元に飛んでくる。

「僕が、他の人と結婚するのが嫌だと思ったから、だ。そうだろ?」

 バスローブに彼が袖を通す。うっすら光った白い肌は隠れ、ただの白いもこもこになっていく。

「まあ、……そうだけど」

 ジャッシュが肯定すると、シリルはトロールの首でも取ったかのように「ほら」と言ってみせ、

「そんな理由で僕が結婚するわけないだろ」

と、冷ややかな視線を投げてよこした。

 

 ジャッシュは内心、いろんな言葉を飲み込んだ。

 だったら、どんな理由で彼は結婚するっていうんだ。というか、どんなまっとうな理由があって、彼は僕とセックスしてるっていうんだ? そもそも、どうして僕は彼に責められている? 浅慮さを? なぜ? 彼はちっとも浅はかじゃない?

 分からない。

 けれど、今は全ての思考がどうでもいいことのように思えて、考えの全部を放棄した。

 とりあえず、彼と付き合っていくにはこの切り替えが大切だ。

 今は、彼と、湯船で身体を洗いたい。

 分からないが、それでいい。

 当分のあいだは、彼の事はちっとも分からないままだろう。

 

2026.05.17