恋愛相談
「でも俺は基本的に、ヤったもん勝ちかなって思うよ」
紫煙と共に、プリースト、ツイードがそう吐き出した。それを隣で聞いていた彼の恋人のアサシン、スルガが、まるで言い訳のように飛び上がって否定する。
「いや! 慎重に行こうよ、そこはさ。好きな子でしょ? 大切にしてこ?」
彼らは頼れるギルドの先輩二人だ。簡単な状況説明と共に相談をしただけで、この二人はいつも真剣にまっとうで的確な助言をくれる。たとえそれが恋愛相談だとしても。いくら突拍子もない内容(シャルが最近、プロンテラの露店通りで、雷にでも撃たれた気になるほど好みの女性に出会った、もう彼女の為に人生捨ててもいいが、散々のアプローチでデートにこぎつけた、この後どうすればいいか、という話)でも。
「つってもご交際なさってるワケじゃないんだしさ。そこまで手順踏む必要ある?」
「ご交際なさるかもしんないだろ! 将来的に!」
「このプロンテラで? 冒険者が?」
「う、まあ」
「そんな物語みたいなことうじうじ言ってるまに、隣から別の男にかっさらわれたら、それこそどうすんの」
「いやぁ……まあ」
「むこうがどういう主義主張かも分かんないのに、お付き合いしたい人前提みたいな感じでいくの、俺はどーかと思うけど」
「でも……でもさぁ、好きな子できたら、初めぐらい物語的王道でいいと思うよ、俺は……」
「リサーチ前の段階でー…? 面識ナシってったら、それってまあ、つまりナンパだろ? お前は逆ナンに誠実さ求めんの、俺なら刺激だな」
「運命的なナントカに、憧れる系だったら、…もしそうだったら、逆効果じゃん」
「はああ…?? なあ、シャル、お前自身どう思う? こんな腑抜けアサシンの夢フィルターがかかった意見、まともにきく気になる?」
相談した手前、最後まで意見を聞こうと黙っていたシャルは、話を振られてようやく、堪えていた笑いを噴き出した。
「ふはは」
ツイードが不可解そうに首をかしげるものだから、シャルは一度「いや」と手を振ってから、言葉をつけたす。
「でもツードさんには、スルガさんのアタック、効いたんでしょ?」
ツイードは、煙草を銜えたまま、非常に苦い笑みを片頬だけに浮かべた。
「……お前は、やなとこ付いてくるね、相変わらず」
「いや、いいこと言ったよ、シャルは今」
スルガは感心しながらウンウンと頷いて、腕を組む。満足げな恋人をよそに、ツイードは苦々しい顔を崩しもしないで、それから半分以上を諦めることにまるで手馴れたように、喫煙の動作を再開させた。
「ねえ、ツードさんはスルガさんの何が良かったの」
「は。その質問、もう百回は聞かれたよ」
トン、と灰皿に灰を落としてから、ツイードは視線をテーブルに置いたまま、事も無げに言った。
「カラダ」
「ありえる? この人、いっつもこう答えるんだよ? 酷くね?」
「いやぁ」
シャルはまた、快活な笑みでそれに返す。自分のギルドの先輩方は、大変愉快で参考になるのだからありがたい。
「俺もそうだから、やっぱツードさん派かな?」
2016.05.19